Coqのインストールと利用の入門です。
非常に簡単な定理の証明です。
introsを行うと、ゴールの表示が次のようになります。
1 subgoals
P : Prop
Q : Prop
H : P
H0 : P -> Q
______________________________________(1/1)
Q
ここで、次の4行は「持ち物」を表します。
P : Prop
Q : Prop
H : P
H0 : P -> Q
しかし、最初の2つの「持ち物」と、次の2つの「持ち物」は別の意味です。
これらは、Coqの理論としては同一視されます。P, Q, H, H0 はそれぞれ Prop, P, (P -> Q) という型をもつ変数なのです。
簡単な型システムをもつプログラミング言語では、値とその型の関係はフラットです。しかし、Coqではこのように、Pがコロンの左側に来たり、右側に来たりします。値と型の関係は、「これは型」「これは値」という絶対的な位置関係ではなくて、「Aの型はB, Bの型はC」というような相対的な関係であるということに注意しましょう。(練習していくうちにわかると思います。)
仮定の持ち方が先ほどと違ったことに気づいたでしょうか。
Theorem Modus_ponens : forall P Q : Prop, P -> (P -> Q) -> Q.
Theorem Modus_tollens : forall P Q : Prop, ~Q /\ (P -> Q) -> ~P.
これを抜き出すと、次のようになります。
coq
A -> B -> C
A /\ B -> C
課題1では、二つの仮定の間には -> がありました。しかし、課題2では、二つの仮定の間は /\ で結んでいます。
正しく括弧をつけると、次のようになります。
coq
A -> (B -> C)
(A /\ B) -> C
これらは、同じ意味になります。これをカリー化(currying)といいます。普通は、前者を使ったほうが使いやすいです。
P \/ Q を分解すると、「Pの場合」と「Qの場合」の2つの場合分けになります。
次の定理を証明せよ。ただし、全自動で証明できてしまうautoやtautoなどのコマンドは使わないこと。
2 subgoal
P : Prop
Q : Prop
H : P
H0 : ~ P
______________________________________(1/2)
Q
______________________________________(2/2)
Q
これは、次の表示が省略されたものです。
2 subgoal
P : Prop
Q : Prop
H : P
H0 : ~ P
______________________________________(1/2)
Q
P : Prop
Q : Prop
H : Q
H0 : ~ P
______________________________________(2/2)
Q
このように、二つの場合分けができた場合は、その「持ち物」も異なることがありますが、なぜか省略されてしまうのでわかりにくいかもしれません。
また、場合分けが発生するので、(通常のプログラミング言語における条件分岐文でそうするように)インデントを行ったほうが読みやすくなります。
Theorem Disjunctive_syllogism : forall P Q : Prop, (P \/ Q) -> ~P -> Q.
Proof.
intros P Q H HnP.
destruct H as [HP | HQ].
(* Pの場合 *)
destruct HnP.
exact HP.
(* Qの場合 *)
exact HQ.
Qed.
さらに、Coq 8.4から使えるようになったbullet機能を使うと、見やすくなるだけではなくて保守性が上がります。
Theorem Disjunctive_syllogism : forall P Q : Prop, (P \/ Q) -> ~P -> Q.
Proof.
intros P Q H HnP.
destruct H as [HP | HQ].
- (* Pの場合 *)
destruct HnP.
exact HP.
- (* Qの場合 *)
exact HQ.
Qed.
ド・モルガンの定理です。もう1つのド・モルガンの定理は証明できません。これはCoqの論理がデフォルトでは直観主義論理だからです。
Coqのデフォルトの論理は直観主義論理なので、排中律は証明できません。
しかし、古典論理はある種の二重否定変換によって直観主義論理に埋め込むことができます。
述語論理に対する変換は少々複雑で、Kuroda変換などが知られていますが、命題論理に対する変換としてはGlivenko変換がよく知られています。これは単に命題全体を二重否定するものです。
この問題は、排中律の二重否定なので、直観主義論理で証明できます。